2023年3月28日
会社経営
予備軍が14万社!社保倒産とはどういうものか解説いたします。
会社を運営する中では様々な出費が伴い、本業のビジネスにかかる出費以外にも様々な支出が必要です。
公的な出費では税金が真っ先に思い浮かぶかもしれませんが、会社が負担する従業員の社会保険料も大きな負担となるものです。
社会保険料の中でも特に厚生年金保険料の負担が大きく、事業者にとって悩みの種となっていることは否めません。
今、この社会保険料の支払いに窮し「社保倒産」の危機に瀕する事案が多発していることが問題視されています。
本章では社保倒産とは何か、問題の中身に迫りたいと思います。
■社保倒産とは?

「社保倒産」とは、端的には社会保険料の納付を滞納したことにより年金事務所に財産を差し押さえられ、資金がショートして倒産に至る事象を指します。
日本年金機構がまとめた「令和3年度業務実績報告書(案)」によると、厚生年金保険料等の社会保険の支払いを滞納している事業者は全国で約14万社に上るということが示されています。
社会保険料の滞納が一定期間続くと、年金事務所は支払われるべき保険料を回収するために企業の財産を差押え、必要に応じて換価処分して保険料に充当します。
銀行や税金を徴収する税務署などがこのような措置を取ることは知られていますが、年金事務所のような機関が財産を差し押さえることがあると聞いて驚く人もいるかもしれませんね。
ただ保険料を徴収する機関ですから、他の組織や機関と同じように強制徴収に動くことは当然あります。
ところで、企業が支払うべき各種の費用には優先順位があり、一般的には以下のような順位とされているのをご存じでしょうか?
①従業員の給与
②買掛金の支払い
③諸経費
④税金や社会保険料
⑤銀行からの借入金
これを見ると社会保険料は順位的には下の方ですが、これは一時的に滞納してもある程待ってくれる余裕があるからです。
とは言っても社会保険料などの公的な納付金は滞納すると納付期限から一定の延滞金が付加されるなどのペナルティが発生するため、金銭的には余計なマイナスを生んでしまいます。
後回しにした社会保険料の納付を滞納している場合、よっぽどの業績回復があったなど特別な場合を除けば、後から滞納分にさらに延滞金をプラスして支払うことは難しいことが多いのが実情です。
そうした企業が14万社もあるということで、これら企業の財産差し押さえが行われれば超大型連鎖倒産の事態となることは必至です。
日本経済は大きな爆弾を抱えているという指摘もあり、一種の恐怖を覚える事態となっています。
■会社が倒産したら社保債務はどうなる?

では仮に社会保険料を滞納して財産を差し押さえられ、「社保倒産」となってしまった場合は会社はどうなるのでしょうか。
この場合、個人事業で運営している場合と法人として運営している場合で結果が異なります。
個人事業形態の場合、自己破産をすれば事業上で発生した負債は基本的に免責されますが、税金や社会保険料などの公的債務は免責されないことになっています。
つまり自己破産をしても社会保険料の滞納分は生きている間ずっと請求され続けるということです。
自己破産後に財産を築くことができたとしたら、その財産も差し押さえの対象にされる可能性があります。
さらに、こうした負債は相続の対象になるので、自身が死亡した後は相続人にその負債が引き継がれます。
相続放棄をしない限り、親や祖父母の代が残した社会保険料の滞納を子や孫が払わなければならないことになるので、何とも理不尽です。
一方、法人形態の場合は話が違ってきます。
経営者個人と法人は人格の切り離しがされているので、会社が破産して法人格が消滅すれば社会保険料の滞納に係る納付義務も消滅します(合同会社や合名会社の無限責任社員など一部例外あり)。
これを考えると、法人として事業運営をしている企業は社会保険料の滞納がかなり大きくなっている場合、一旦会社をつぶしてから再起を検討するということもありかもしれません。
当然会社を倒産させるということは方々に大きな影響をもたらすことになり、経営者としての信頼も大きく損ねてしまうリスクもあるので、簡単にはいきません。
法的側面、事業再生の可能性の側面など熟慮したうえでの判断が求められます。
社会保険料の滞納が膨らんでいる事業者は、弁護士や事業再生を手掛ける専門家などの知恵を借りつつ、今後の立ち振る舞いについて考える必要があるでしょう。
■まとめ

本章では社保倒産というテーマを取り上げて見てきました。
意外と注目されることがない社会保険料の滞納問題から生じるもので、現在約14万社もの企業が社会保険料を滞納しており、これらの企業が資産の差し押さえによる倒産の危険があるという問題です。
倒産予備軍とも捉えることができ、もし具現化すれば日本社会に大きなダメージが生じることになります。
企業は何かと負担を背負わせられる存在ですが、彼らが頑張ってくれなければ国が成り立たないわけですので、この問題については有意な打開策を模索していく必要があるでしょう。