2023年8月22日
スタッフブログ
10月からインボイス制度で絶対やってはいけない取引先への行動とは?
昨年から色々と話題になり問題や課題が指摘されているインボイス制度ですが、いよいよ導入が目前に迫っています。
インボイス制度の導入は単なる税制ルールの改定に止まらず、働き方や人生設計にまで影響を及ぼす大きな問題として認識されています。
この回では10月から導入されるインボイス制度について、取引先との関係でやってはいけない行動について考えてみます。
■取引先がインボイス未登録の場合

まず、自社がすでに消費税の課税事業者である場合の立ち位置から見ていきます。
この場合、仕事を発注する取引相手が消費税課税事業者でないケースでインボイスの問題が生じることになります。
この視点から取引先に対してやってはいけない行為として、インボイス未登録であることを理由にした一方的な値引きや取引の停止、あるいはインボイス制度への登録の強要などが挙げられます。
こうした行為は下請法や独占禁止法などに触れる可能性があります。
インボイス制度への登録を勧めたり、登録するかどうかの予定を聞くのは構いませんが、強要すると問題になるので注意が必要です。
こうした行為については、想定される問題行為を挙げて政府が注意喚起を行っています。
具体的に問題になりそうな例を3つ挙げて見ていきます。
①インボイス未登録であることが請求段階で判明し一方的に減額する行為
例えば報酬総額11万円で契約し、取引が完了したとします。
請求を行う段階で相手がインボイス未登録であることが分かったため、消費税相当分の1万円の全部または一部を支払わないこととした場合、下請法第4条第1項第3号の「下請代金の減額」にあたり下請け法違反として問題になります。
②求めに応じてインボイス登録をした相手の単価を一方的に据え置く行為
継続的な取引関係にある相手業者が免税事業者であることを前提に仕事を発注した後、今後の取引も踏まえてインボイス登録を求め、相手がそれに応じて登録をしたとします。
これにより消費税の負担が増えることから、相手が単価増の交渉をしてきたとしましょう。
その際、課税事業者になった相手からの価格交渉に応じず、一方的に従来通りの単価に据え置いて発注を続ける行為は下請法第4条第1項第5号の「買いたたき」として問題になる恐れがあります。
③インボイス登録をしないことで取引の打ち切りや単価引き下げを強要する行為
独占禁止法上は、課税事業者になるように要請すること自体は問題になりません。
しかし現状で消費税免税事業者である相手方に対し、インボイスに登録しなければ消費税分を支払わない、あるいはこれに応じないと今後取引をしない旨を一方的に通告する行為は独占禁止法上で問題になる恐れがあります。
インボイスを巡っては、消費税の免税事業者の側から見た問題がクローズアップされることが多いですが、このように免税事業者に仕事を発注する側からみてのリスク管理にも課題があることを認識しておきましょう。
■自社がインボイス未登録の場合

次に、現状で消費税の免税事業者となっている立場から見た場合です。
世間で騒がれているニュース等ではこちらの立場から見た問題が扱われることが多いと思います。
こちらサイドから見た場合のポイントとしては、インボイス登録をした場合は消費税の負担が増え、インボイス登録をしなかった場合は取引相手に逃げられてしまうか、または値下げの要求を受ける可能性があるということです。
上で見たようにインボイス登録を強要したり、交渉を拒否して一方的に値下げをする行為は禁止されるので、まずはこの点を押さえておきましょう。
その上で、以下のような行動は控えるように意識してください。
①言われるままにインボイス登録する
インボイス登録をするかどうかは自社を主眼に考えるようにします。
登録すれば消費税の負担が発生しますし、取引先は変わる可能性があるので、今の取引先に求められたからといって安易に応じることは推奨されません。
今抱えている取引先の数や相手の考え方、自社が出している現状の利益の額と消費税課税事業者になった場合に想定される税負担などを総合的に勘案し、インボイスに登録することでどのような利益があるのか、またリスクがあるのかを吟味する必要があります。
取引先との関係は自社判断がしやすいと思いますが、税負担がどうなるかについては税理士のシミュレーションが必要かもしれません。
すでに取引先から何らかの通告を受けている場合、上で見たように下請法や独占禁止法に触れる行為である可能性もあるので、必要に応じて弁護士などの専門家に相談する姿勢も必要です。
②安易に値引きに応じる
現場目線では、パワーバランス上で不利な立場となる下請け側が値引きを迫られることは十分考えられます。
まず、上でも見たようにすでに契約が成立した案件について消費税分を一方的に値引きする行為は下請法違反となる可能性あります。
問題は次の契約段階で相手が値下げを要求してきた場合です。
値下げを強要し、嫌なら今後の取引を控えると通告する行為は上のように独占禁止法上問題になる恐れがありますが、インボイス未登録であること以外の理由を挙げて値下げを要求されることもあるかもしれません。
値引きに応じるかどうかは自社の責任で個別に判断することになりますが、安易に値引きに応じる前に、自社の製品に付加価値を付けて他社との差別化を図るなど、値引きを避けるためにできることが無いか考えてみる姿勢も必要です。
■まとめ

本章ではいよいよ10月から導入されるインボイス制度について、取引先との関係でやってはいけないことについて見てきました。
現状で課税事業者である立場か、逆に免税事業者の立場であるかによって課題やリスクが全く異なるので、それぞれの立場でどのようなリスクや課題があるか個別に認識が必要です。
インボイスについては10月からの制度導入によって早々に問題やトラブルの報告が方々から上がってくると思われます。
しばらくはそうした声を拾って具体的なトラブル事案の検証がなされると思いますので、注目していきましょう。