2022年12月19日
会社経営
社員の定着率が上がる人事制度を構築する5つの柱について解説。
「手間と費用をかけてせっかく採用選考をほどこしたのに、うちの会社はすぐに社員が辞めてしまう」と嘆かれる経営者はかなり多いです。
昔は辛くても我慢するのが当たり前で、会社を辞めることは考えられない時代もありましたが、今では社員に不満があれば割と簡単に辞めてしまう時代です。
時代の変化や労働環境、法制度などの影響もあるとは思いますが、経営者としてはせっかく採用した優秀な人材が流出しないように配慮することは重要な課題です。
本章では社員の定着率を上げる人事制度をどのように構築すれば良いのか解説していきます。
■日本の定着率って今どうなってるの?

先に、データとして日本の会社における社員の定着率について見ておきましょう。
厚生労働省は「離職率」としてのデータを取っており、これによると平成30年の離職率は一年間で平均14.6%という数字になっています。
離職率は辞めた人を表す数字ですが、これは裏を返せば定着率として考えることができます。
辞めた人の反対、つまり会社に残った人は85.4%で、これを定着率として考えることができます。
80%以上の社員が定着すると考えれば、経営者としては多いと思うか、少ないと思うか、どうでしょうか?
採用は自社の必要な人材を厳選して行われるものですから、本来であれば一人でも離脱が出ることは許したくないと思うのが普通でしょう。
そうすると上の定着率は低いと判断する経営者が多いと思われます。
なお、定着率が低い業種としては飲食業や宿泊業などで、定着率は73.1%とされています。
離職率が26.9%になりますから、10人採用して2人は辞めるという計算です。
業界によっても定着率に差があるので、辞める人が多い業界は採用にかかるコストや手間が事業を圧迫することになります。
■定着率が低い原因は?

定着率が低いと捉えた場合、その原因を考える必要があるでしょう。
社員の側も色々と検討した結果、最も望ましいと思われる選択をしてその会社に入ったわけですから、辞めるとすれば何らかの原因があるはずです。
個々人の事情もあるのは当然として、多くの場合は入社前の想定と何かしらの相違、いわゆるギャップを感じて離職を考えると思われます。
例えば仕事の内容であったり社内風土だったり、あるいは人間関係であったり、労働時間や福利厚生など、人それぞれ理由は異なるでしょうが、何らかの不満が起因となって離職という結果を招くことになります。
社員個人の望みに個別にフォーカスするとなると限界がありますが、社員の定着率を上げるために全体的な工夫を施し、無用な離職を回避できれば会社の生産性が維持され競争力の強化につながります。
次の項からは定着率を上げるためのヒントを見ていきます。
■定着率を上げるには「リテンション」に着目!
社員の定着率を上げるために意識したいのが「リテンション」というワードです。
聞き慣れない人もいると思いますが、英語の「retention」に由来し、和訳としては「保持」や「保有」という意味になります。
人材を維持して離職を防ぐということで、社員の定着率を上げたい会社の取り組むべき課題として取り上げられることがあるので、ぜひ覚えておきましょう。
リテンションの手法にはいくつかあり、これが会社の定着率を上げる柱となるので、次の項で見ていきます。
■定着率を上げる5つの柱を確認

①ワークライフバランスの充実
最近の会社経営で従業員の離職率を下げるために必ず意識したいのが「ワーク・ライフ・バランス」です。
このワードが使われ出してからかなり経つので知らない人はいないと思いますが、仕事と私生活のバランスを取れるようにしましょうということです。
かつては「モーレツ社員」などと呼ばれる仕事の鬼と化すことが理想とされた時代もありましたが、今では過去の遺物です。
私生活が安定してこそ仕事に安心して打ち込むことができ、これが会社に対して貢献できる動力となります。
経営者としては少しでも仕事に時間を割いてもらいたい意識があっても、バックグラウンドの私生活の安定があってこそという意識は現代では絶対必要です。
具体的には残業時間を減らしたり、有給休暇を取りやすい環境を作る、育児休暇の積極取得を呼びかけるなどの対応を取ることで、ワークライフバランスの実現を目指します。
②社員のキャリアアップや能力開発を応援
昔と違って現代の社員は自分のキャリアアップを自分で考えるようになっているので、もし今の仕事が自分のキャリアにつながらないと判断すると早々に見切りをつけて他所に転職してしまうこともあります。
給料がもらえればいいだろう、という考えは経営者にありがちですが、そうではなく将来の自分のキャリアのことも考えているわけですから、これを後押しできる環境を提供してやれば社員のやる気のアップにつながります。
能力開発の一環として適切な教育制度を設けたり、スキルアップにつながりそうな資格取得を会社として応援するなどの工夫ができます。
勉強時間の確保に融通を利かせたり、資格を取得した者に報奨金を与えるなどの検討ができます。
資格は一般に流通する国家資格や民間資格などでも良いですし、社内で活用できる社内資格を作って運用することもできます。
③福利厚生の充実
古典的なことですが福利厚生を充実させることもリテンションの一環です。
給与額の他に通勤の費用を補助したり家賃の補助などはよく検討されます。
面白いところでは社内食堂を無料にするなど、毎日必ず自分の財布から出費がある項目に手当を設けることもでき、こうしたごく日常でなされる出費に手当てが入ると、社員の実感が高まり、恩恵を感じやすいので良い効果を生みます。
④働く環境や社内風土の改善
会社は一日のうちの大半の時間を過ごす空間です。
男性にも女性にも、居心地の良い職場環境を作ることは従業員のパフォーマンスに影響するので、衛生的で気持ちよく仕事ができる環境を整えましょう。
また人間関係の良し悪しも定着率に大きく影響します。
パワハラやセクハラなどが行われにくいよう、人間関係の風通しも改善できる点が無いかチェックしてみましょう。
人生経験の浅い若い社員の定着率を上げたい場合、問題を一人で抱え込まないよう、メンター制度設けるのも一考です。
気軽に疑問点を聞くことができれば、トラブルになる前に事前に問題の芽を摘み、社員に予定な負担をかけることもなくなります。
⑤採用時のギャップ軽減
「入ってみたらなんか違った」という感覚があると早期の離職につながってしまいますから、採用前後のギャップが起きないよう、募集広告作成時や面接の際には会社の良いところだけでなく厳しい面も隠さずに知らせておく方が無難です。
できれば短期のインターンシップなどを行って、実際に会社で仕事を経験してもらうと大きなすれ違いを防ぐことができます。
良い面だけを強調して無理に採用しても、結局離職となれば手間もコストも水の泡になってしまいます。
■まとめ

この回では社員の定着率が上がる人事制度を構築する5つの柱についてみてきました。
極々単純作業のみの事業ならば替えの人材確保は容易に利くかもしれませんが、一般の企業では採用した直後は通常戦力としてすぐに稼働できず、ある程度の期間は訓練して育てる時間が必要です。
手間とコスト、そして時間をかけて育てた社員がやる気をなくして離職してしまえば、会社にとってはボディブローのように地味でも大きな痛手になります。
リテンションを意識して社員のやる気や愛社精神を育てることができれば、定着率は大きな改善が見込めます。
改善できる点はないか、今一度検討してみてはいかがでしょうか?